Column
2000年4月にパーキンソン病の外科的治療として脳深部刺激術が保険適用となりました。これを契機にこの約3年間、外科的治療が大きな広がりを見せてきました。
パーキンソン病の場合、どうやって脳の機能を調整するのですか?
脳は、全体的なバランスを保ちながら活動しています。しかし、ある部分の働きが悪くなると別の場所が異常上に働き出すという特徴を持っています。パーキンソン病の場合は、脳の黒質で作られるドーパミンというホルモンが不足することで、脳内の情報連絡が乱れ、滑らかな運動ができなくなります。こういった状態になると、淡蒼球内接や視床下核などの動きが異常に活発化し、その結果として体の動きに異常なブレーキがかかります。
パーキンソン病の手術は、ブレーキになっている部分に電気を流してその部位を凝固する凝固術と、ブレーキになっている部位に電極を埋め込み、そこに電気的な刺激を送ることで適度に流れる情報を遮断してしまおうという脳深部刺激術の二つの方法があります。
2000年4月から保険適用された脳深部刺激術について教えてください。
脳深部刺激術は1995年にフランスで開発されました。日本でもこの3年間急速に普及してきた治療法です。フランスの脳神経外科ゼナビード先生が視床下核という場所に脳深部刺激装置を埋め込むと非常にいい成績が得られると発表され、日本でも同じ手術が行われるようになりました。
どんな手術か具体的に教えてください。
左右両側の視床下核という目標点に1ミリの誤差なくピッタリと電極を定位的手術装置によって埋め込みます。
定位脳手術について教えて下さい。
定位脳手術とは、脳の解剖と機能をよく理解し、異常な働きをする部分を凝固したり、あるいはその部分に刺激装置を埋め込み、脳の機能を良くする、即ちパーキンソンの症状を軽くする手術という意味で機能外科とも呼んでいます。
刺激装置の電源はどうなのですか?
鎖骨の下の皮下に発信機を埋め込み、脳に埋め込んだ電極とごく細いコードで皮下の下で接続します。ですから、外から見てもわかりません。
その発信機はどの位もつのですか。
7、8年はもつと言われていますが、電池の交換の為の手術は必要となります。
2000年4月から健康保険を使って治療を受けることができるようになったのですね。
そうです。ですからパーキンソン病の特定疾患指定を受けられた方であれば、なんら問題なく保険で手術を受けられます。
特定疾患指定の手続きはどのようにすればよいのですか?
パーキンソン病の患者さんは、症状が一定以上の重症度になると、申請により特定疾患認定患者として治療費の扶助を受けることが出来ます。認定されるのは、ヤール分類Stage3生活機能障害2度以上の方です。
手術時間と入院期間について教えて下さい。
定位的な脳深部刺激装置埋め込み術の場合は、一側で、4時間前後の手術時間がかかります。薬の調整を含めて、一般的に術後4週~5週間の入院が必要となります。
手術の時期を知らせる病状を教えてください。
一番の目安は歩行障害です。一人で歩くのが難しいといった状態が本人にとっても手術を受けやすい時期です。その他、家族に随分と介助をしてもらわなければならない、自分も気を使うし、家族も負担が増えてくる、そういった時期も手術を決断するいい時期と思います。
手術の効果について教えてください。
パーキンソン病の三大兆候である、しんせん(震え)筋固縮(筋肉が硬くなる)、無動(動きにくくなる)全てに対して有効です。
手術すれば、もう薬は飲まなくてもいいのですか?
全面的に止めてしまうわけにはいきません。服薬量を今までの半分くらいに減らすのが目標です。
定位脳手術の方法についてもっと詳しく教えて下さい。
CT、MRIの画像に基づき、コンピュータを使って電極を埋め込む位置を正確に計算し、定位脳手術装置を用いて三次元計測により電極の埋め込みを行います。判断は人間がし、機械操作も人間がしますけれども、その大半の計算はコンピュータによって行います。
その他、手術に伴う危険性について教えて下さい。
リスクはゼロではありません。手術中の胸内出血などの危険性はあります。
この脳深部刺激術のメリットは、不都合があれば電極が除去でき、外部からの皮膚の上から刺激の強さを調節できます。効果としては、すくみ足や姿勢がよくなる為に、歩きやすくなるのが手術の最大のメリットです。
症例があれば、教えて下さい。
64歳・女性・主訴:ジスキネジア
50歳に入り手が振るえ、動作が次第に鈍くなり、内科専門医を受診。抗パーキンソン剤の単剤使用から治療が始まったが、次第に抗コリン剤等々が追加され、次第に飲む薬が増え多剤療法になっていった。
一時は、日常生活がむずかしい程に、動作が緩慢となり入院したことがありました。何度か胸の悪いところに針を入れて視床という場所を焼く手術を勧められましたが、恐ろしくて手術を受けませんでした。ところが、最近になって体の動作がさらに一層鈍くなり、脳の悪い所に刺激電極を埋め込む別の手術をすると言われ、恐ろしく思っていましたが、意を決して専門医の手術を受けました。薬は引き続き内服していますが、随分と体が楽になり、階段の昇降には、テスリは必要ですが、散歩が出来るようになりました。
最後にパーキンソン病の症状が軽いうちから毎日の生活の中に週間として朝晩の散歩・ラジオ体操を習慣づけて下さい。パーキンソン病では、身体の動きが遅くなり、気分的にもふさぎがちになる傾向があります。普段から積極的に外へ出かけ(散歩など)、身体を動かすようにして下さい。しゃべり声が小さく抑揚がなくなる傾向がありますので、周囲の人と積極的に大きな声で会話をし、笑うことは大事です。歩行の練習、正しい姿勢の保持、発声練習、筋力・関節可動域維持のためにも体操などを規則的に行うことが推奨されています。
プレスシード 2002年1月31日掲載