Column
多くの人を悩ます「頭痛」について、脳神経センター大田記念病院 頭痛専門外来 大田浩右(こうすけ)先生にお伺いしました。
頭痛はきわめて一般的で多くの人が経験しますが、最近片頭痛についての治療が大きく変わったと聞きます。まずは片頭痛について説明してください。
“片頭痛”という文字表現がそもそも混乱の元なのです。片頭痛の約半数が“両側”性の頭痛です。
片頭痛がズキズキした頭痛、筋肉のこる緊張型頭痛はギューッと締め付ける頭痛といわれますが、これは正しいのですか?
血管が拡張したためにくる血管性の頭痛、すなわち片頭痛は“ズキンズキン”とか“ズキズキ”または“ドクンドクン”と脈打つような痛みといわれているのは、半分は正しいのですが、実は残り半分はズキズキ感がありません。
筋肉が凝る緊張型頭痛はどうなのですか?
こちらの方も“ギューッ”と締め付けるような痛みは半分程度で、逆にズキズキと訴える人も半分位おられます。
ということは、血管が拡張したためにおこる『片頭痛』と筋肉が凝るために起こる『緊張型頭痛』は痛みのタイプだけでは鑑別が難しいのですか?
おっしゃるように半分は痛みの形でわかりますが、残り半分はなかなか痛みのタイプだけでは鑑別が難しいのです。
では先生はどのようにして偏頭痛と緊張型頭痛を分けておられますか?
両者の頭痛の一番大切な対比は、緊張型は身体を動かして運動すると楽になります。一方片頭痛は運動するとさらに頭痛がひどくなり、つらくなります。
なるほど、わかりやすい鑑別法ですね。他にも鑑別法がありますか?
吐き気を伴う頭痛と伴わない頭痛によって鑑別診断ができます。少なくとも、吐き気がないと片頭痛と診断するのは難しいと思っています。
それでは、運動によって楽になるのが緊張型頭痛、逆につらくなるのが片頭痛というわけですね?
大変重要な鑑別の根拠となっています。これに悪心嘔吐を伴うとか、音や光に敏感になるなどがあれば、より一層片頭痛の可能性が高いです。
ここに頭痛の鑑別診断のための問診票がありますが、この問診票によって正確な診断ができるということでしょうか?
今までに申し上げたように、運動、悪心嘔吐、音や光への過敏性などを診断の根拠にしていますが、同じ患者さんでもある時は片頭痛、ある時は緊張型頭痛ということがあります。
では二種類の頭痛を一度に持っている患者さんも結構おられるのでしょうか?
結構おられます。私の外来で大雑把な統計ですが、片頭痛の方が4割、緊張型頭痛の方が3割、残りが両者又は診断不明の頭痛です。
それでは片頭痛の患者さんは健康な人の中にどの程度の割合でおられますか?
日本人では100人中6人か8人といわれています。
随分多いのですね?
外国はもっと有病率が高いです。日本ではどうしてそんなに少ないのかと逆に質問されるくらいです。
頭痛の方はあまり受診されないと聞きましたが?
多くの患者さんが日常生活で随分と困っておられるのに受診は少ないです。日本では頭痛持ちはあまり好ましいことではないので、皆さんあまり言わずに耐えているのが実情でしょう。
病院としては何か対策をお持ちですか?
受診してもしょうがないとか、まぁ我慢しようという考えを変えてもらうために、頭痛にはいいお薬が出来ましたので、きちんとした鑑別診断の下に正しい処方をすれば、我慢した生活から快適な生活に変えることができるというプロパガンダ(宣伝)をすべきと思っています。そのためには頭痛外来など、受診しやすい専門外来を充実していきたいと思っています。
薬の飲みすぎで起こる薬剤性頭痛が多いと聞きますが?
今ひとつ原因がわからないのですが、経験的に痛み止めを飲むと頭痛がこじれることは間違いありません。“薬剤誘発性頭痛”とよばれているものです。2ヶ月も3ヶ月も毎日のように痛み止めを飲んでいると、かえって頭痛が強くなり、さらにしんどくなります。これを“慢性連日性頭痛”とも呼ばれています。
どんなお薬がよくないのですか?
一般に皆さんがよく飲まれるアスピリンやエヌセイドなどの消炎鎮痛薬です。
最近発売された片頭痛の新薬は大丈夫ですか?
最近登場した片頭痛の特効薬トリプタンもエヌセイドと同様に運用すると“薬剤誘発性慢性頭痛”になります。
頭痛を治すために薬を飲む、薬を飲むことによって頭痛がさらに増強する。私たちはどうしたらいいのでしょうか?
3日に1回、頓服薬として薬を飲む、この程度であれば遠慮なく薬を飲んで欲しいと思います。
3日に1度ということは、月に10回ということになりますね。
その通りです。月10回以上頓服薬を飲まないといけない人は、早めに専門医を受診してください。
新薬で片頭痛の特効薬といわれるトリプタンは、片頭痛の人にはすべて効くのですか?
トリプタンが無効の方が2~3割はおられます。日本頭痛学会では、この人たちをノンデスポンダーと呼んで、治療に様々な工夫をしています。
2~3割の人が効かないということですが、残り7~8割の人は効くということですから、やはり特効薬ですね?
私の外来では、もう少し成績が悪い印象です。
そんな方にはどのような治療をしているのですか?
抗うつ剤、安定剤、胃腸の伝導をよくする薬、筋弛緩薬などを併用して、トリプタンの有効率を上げるよう工夫をしています。また、保険適用がありませんが、てんかん薬のデパケンも有効な例があります。
トリプタンの副作用を具体的に。
結構訴えがあります。一番多いのは「胸や喉が締め付けられる」「身体がだるくなる」など、患者さんの中には恐怖心を持たれる方もおられます。
ということには、狭心症の方には禁忌とうことですか?
おっしゃるとおり、虚血性心疾患には禁忌ということになっています。しかし、この薬を特別視して怖がることはありません。私は虚血性心疾患の患者さんにも注意して使えば問題ないと思っています。
頭痛外来はあまり儲からない、薬局に毛が生えた程度で、病院としての旨味は少ないといわれますがどうなのですか?
おもしろい質問ですね。おっしゃるように頭痛医療の採算性は随分と低いのです。一番の原因は慢性頭痛の患者さんに対する指導料という診療報酬がないからです。
頭痛の患者さんは多いし、毎月の頭痛で仕事の効率も低下しますし、大切な治療ですよね。
人口の6~8割が片頭痛、きちんとした診断治療を受ければその大半は快適な生活に戻れます。仕事の効率も向上し、経済的なメリットも非常に大きなものがあります。頭痛医療への適正な診療報酬を整備して欲しいと願っています。
夜間の頭痛患者さんについて、当直の先生には不人気と聞きますが?
頭痛でも群発頭痛は夜間睡眠中が多く、激しい頭痛で目が覚め、来院される方がおられます。目の周囲から前頭部、側頭部の痛みを訴える方が多く、眼充血や流涙がみられます。治療としては、酸素吸入やトリプタンの皮下注射などで当直医が対応しています。
プレスシード 2002年9月27日掲載