文責 大田浩右
イビキ、無呼吸は循環器疾患と呼ばれるほど脳と心臓へすぐには目に見えない健康被害をもたらします。睡眠時1時間あたり10秒以上続く無呼吸や低呼吸の回数を無呼吸低呼吸指数AHIと呼び治療の目安に使っています。このAHI指数の定義はWHO、米国、日本とそれぞれ異なります。米国で18年間にわたり経過を調べた研究では軽症のSASを含め心血管系疾患(循環器病)による死亡リスクが5.2倍に高まることがわかってきました。
睡眠時無呼吸症候群SAS患者の健常者と比べた合併リスク
脳卒中 | 約4倍 |
不整脈 | 2~4倍 |
高血圧症 | 約2倍 |
狭心症・心筋梗塞 | 2~3倍 |
慢性心不全 | 約2倍 |
糖尿病 | 2~3倍 |
交通事故 | 約3倍 |
胃食道逆流症 性欲低下 |
増加 |
出典:循環器病の治療に関するガイドライン2008~2009合同研究班報告 一部改変
出典:塩見・篠邊 2009 『睡眠学』 朝倉書店 p459より 一部改変
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査
簡易睡眠ポリグラフ検査
イビキの程度は自宅の寝室で簡単に測れる簡易睡眠検査で確認できます。この検査によって、イビキの程度、就寝体位との関係、睡眠中の血中酸素飽和度などを知ることができます。気になる無呼吸低呼吸回数もわかります。
精密睡眠ポリグラフ検査 ※大田記念病院での検査となります
終夜睡眠ポリグラフ検査とは?
ひと晩の睡眠中の状態を見るために、脳波、眼の動き、呼吸状態、心電図、酸素飽和度(血液中の酸素量)、いびき音などを記録するものです。この検査によって、睡眠の深さや睡眠の質、睡眠中の呼吸状態などがわかります。
センサーをつける場所について
実際の検査は、頭や額、目の周囲、あご、首、胸部、腹部、指にそれぞれセンサーを取り付けます。
身体に様々なセンサーをつけるために「眠れないのでは?」と不安に思われるかもしれませんが、実際にはほとんどの方が眠ることができ、眠れずに検査に支障をきたす方はまれです。長いコードがついていますが、、寝返りも十分できます。
また、枕によって検査結果が変わることがあるため、検査当日は自宅で日常使用している枕をご持参ください。
検査料金は?
検査の費用は保険の種類、その他の検査によって異なりますが、およそ以下のようになります。
- 1割負担の方 約 10,000円
- 3割負担の方 約 30,000円
検査の注意事項について
- 検査時間までにお食事、洗顔、トイレなどを済ませておいてください。
- センサーがつきにくくなりますので、整髪剤のご使用はご遠慮ください。
- 男性の方で、ひげが伸びている方はひげ剃りをしておいてください。
女性の方は、お化粧やマニキュアを検査前までに落としておいてください。 - 枕によって検査結果が変わることがありますので、日常使用している枕をご持参ください。
- 普段と同じ状態で検査を受けていただくために、夕食時に飲酒されている方は、飲酒されてもかまいません。持参される場合は、ビールなら1本程度にしてください。
日本における睡眠時無呼吸症候群SASの重症度分類
分類 | AHI指数 | 厚生労働省による保険適用 |
軽症 | 5~15回 | 1泊しての睡眠ポリグラフ検査AHI:20以上はCPAP療法適用 |
中等症 | 15~30回 | 在宅簡易睡眠ポリグラフ検査 AHI:40以上はCPAP療法適用 |
重症 | 30回以上 | 在宅簡易睡眠ポリグラフ検査AHI:40未満で日中眠気のある場合はOA(マウスピース)保険適用 |
詳しいことはかかりつけ医にご相談下さい。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療
OAマウスピース治療
マウスピース(スリープスプリント)は2004年4月から専門医療機関で「睡眠時無呼吸症候群SAS」と診断された場合、紹介状をもらって歯科医院で作ってもらいます。下記のAHI数値は簡易睡眠ポリグラフ検査によるものです。
鼻炎などで鼻閉傾向の強い人は開窓型マウスピースを作成します。この開窓型マウスピースにもⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型があります。この開窓型マウスピースは作成難度は高くどこの歯科医でも対応してもらえるとは限りません。
適応除外基準(禁忌)
- 重篤な呼吸不全状態
- 治療が困難でOAを維持するのに耐えられないような不良歯牙の存在(治療が可能な場合は、治療後に口腔内装置を適用する)
- 治療が困難な歯周炎
- 顎関節の障害
- 鼻呼吸が不可能な程度の鼻閉(まず鼻閉の治療を行う)
- マッケンジー3度の扁桃肥大(まず手術を行う)
CPAP(シーパップ)療法
日本の保険適応条件
(A)以下の項目全てを満たす症例であること
- 無呼吸低呼吸指数が40以上(在宅簡易PSG検査)
- 日中の傾眠、起床時の頭痛など自覚症状が強く、日常生活に支障をきたしている症例
(B)以下の項目全てを満たす症例であること
- 無呼吸低呼吸指数が20以上(一泊入院精密PSG検査)
- 日中の傾眠、起床時の頭痛など自覚症状が強く、日常生活に支障をきたしている症例
- 睡眠ポリグラフィー上、頻回の睡眠時無呼吸が原因で、睡眠の分断化、深い睡眠が著しく減少または欠如し、持続陽圧呼吸療法(CPAP)により睡眠ポリグラフィー上、睡眠の分断が消失、深睡眠が出現し、睡眠段階が正常化する症例
※この適応基準の妥当性については議論の分かれるところですが、規則上はCPAPの保険適応には、自覚症状があることがまず必要で、AHIが40以上の重症例以外は、CPAP前後で睡眠が改善することをポリソムノグラフィーで確認することが求められています。
米国2002年のCPAP療法に関する基準
- 無呼吸30回/6時間以上
- AHI 15以上が原則CPAP適応
- AHI 5~14まででも強い日中傾眠・不眠症・虚血性心疾患などの合併症がある場合は認められる
CPAPと旅行
- 1泊2日程度の旅行ならばCPAPを携行する必要はないように考えます。
- 3泊以上の場合、CPAPの携行をお勧めします。
希望あるCPAP
- 1日3時間を目標にしましょう。
- 風邪などで喉が痛いときは休みましょう。
- 鼻づまりの時も休みましょう。→よくなったら再開しましょう
- 睡眠中に無意識にマスクを外していても気にする必要はありません。
- マスクを外してそのままお休み下さい。
- マウスピースとCPAPを併用する方法もあります。
- 設定圧には個人差があります、検査技師に圧の調整を頼みましょう。
- 正式な圧調整には、一晩泊まって検査をお奨めします。
CPAPはいつまでも続けるものではありません。
当クリニックでは離脱を前提とした診療を心掛けています。CPAPの効果が認められる離脱の目安を以下に示します。
CPAP離脱のために
- 肥満の解消 肥満の方は、肥満の改善がとても大切です。
※CPAP療法では、肥満改善を同時並行的に指導します。 肥満の程度は体重÷身長×身長=BMIの数値で本人にわかりやすく説明します。
BMIが30前後の人に睡眠時無呼吸が多く、BMIが25前後に改善されると睡眠時無呼吸も改善されます。 - 口呼吸⇒鼻呼吸による改善
- マウスピース(OA)による改善
- まくら、体位による改善
- アデノイド・扁桃腺などの手術による改善
睡眠時無呼吸症候群SASの問題点
CPAP療法適用以外の患者さんに対し注意すべき問題点があります。
● 検査ではつかめない中枢性無呼吸の存在です。特に在宅での簡易睡眠ポリグラフ検査で見落とされるリスクがあります。安易にこの検査をする睡眠時無呼吸を専門としない医師が増えており注意が必要です。専門とする医師は簡易睡眠ポリグラフ検査の機器選定に慎重です。呼吸波形を見ずにAHIの数値だけでの診断は危険です。
● 低呼吸は睡眠中の血中酸素飽和度をもって表します。低呼吸型SASもその程度によっては無呼吸型SASに劣らない危険性があります。重度の低呼吸型SASはCPAP保険適用のない程度のAHI指数でもCPAPが必要な場合があります。このような患者さんは保険では救済できません。日本のようにCPAPの機器が法外に高い国では安く個人購入する道を探す必要があります。実際に睡眠中の血中酸素飽和度の色々なパターンをお見せします。
● 簡易睡眠ポリグラフ検査結果AHIの数値と臨床症状に解離がある場合は1泊しての精密睡眠ポリグラフ検査を受ける必要があります。この精密睡眠ポリグラフ検査は高額で簡易睡眠ポリグラフ検査の約10倍します。ここにも弱者への配慮はありません。