過眠症は、、、眠たくて勉強・仕事に集中できない、運転に支障がある、突然眠るなど、日常生活に支障をきたします。
過眠症には中枢性過眠症である特発性過眠症とナルコレプシーがあります。
ナルコレプシー
社会での認知度が低いため、横着病とか、怠け者のレッテルを貼られることがあります。れっきとした、睡眠の病気であることを解ってもらい、仕事内容の配慮など、使用者側の理解が大切です。診断は問診と検査によって行います。
ナルコレプシーは、突然発作的に襲ってくる耐え難い眠気が日に数回もあり、勉強や仕事に支障をきたします。外国に比べて日本人には多いようです。頻度は、1万人当たり14~16人程度と推測されます。福山市の人口40万人からすると約600人の方がナルコレプシーで困っておられるのではないでしょうか。
明神館クリニックでは、専門の臨床検査技師による正確な検査を行っています。
ナルコレプシー4大症状
1. 睡眠発作:耐え難い日中の眠気
2. 情動脱力発作 カタプレキシー
3. 睡眠麻痺 金縛り
4. 生々しい入眠時幻覚
注:3と4がセットで起こる場合が多く、入眠に恐怖を覚える場合があります。俗に金縛り、悪夢と言われています。
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ナルコレプシー1型:情動脱力発作を伴う睡眠発作
ナルコレプシー2型:特発性過眠症:情動脱力発作を伴わない睡眠発作
情動脱力発作 問診票(PDF)
情動脱力発作=カタプレクシー(cataplexy)は、喜怒哀楽、恐怖や羞恥といった過度の感情の高ぶりによって、突然、身体の力が抜ける発作を言います。
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脱力発作の最も多い部位は
1.頸部 突然 うなだれる
2.顔面 突然 だらりとした顔、舌を出す
3.まぶた 突然 眼瞼の下垂
4.体幹 突然 よろける(比較的少ない)
ナルコレプシーの検査
- アクティグラフ
- 睡眠時ポリグラフ検査 PSG
- 反復睡眠潜時検査 MSLT
さらに詳しい検査をする場合
- HLA遺伝子検査
- 髄液オレキシンの測定
診断
臨床症状、PSG、MSLTにより、主たる判断をします。
HLA検査、髄液オレキシン値検査は、ガイドラインでは検査項目に入っていますが、HLA遺伝子検査はナルコ1型でも、完全に100%陽性ではありません。髄液オレキシン検査は、腰椎穿刺後の副作用もあります。
多くの医療機関、臨床現場では、ほとんど行われていません。
ICSD-3を参考にした中枢性過眠症
~ ナルコレプシーと特発性過眠症の鑑別点 ~
ナルコレプシー1型 | ナルコレプシー2型 | 特発性過眠症 | ||
情動脱力発作 | あり | なし | なし | |
napの持続 | 短い (30分以内) |
短い (30分以内) |
長い (1~数時間) |
|
眠気の強さ | 強い (耐え難い居眠り) |
強い (耐え難い居眠り) |
ナルコレプシーより弱い | |
仮眠後の爽快感 | あり | あり | なし | |
朝や仮眠後の覚醒の容易さ | 容易 | 容易 | 困難なことが多い | |
M S L T |
入眠潜時 | 8分以内 (典型的には5分以内) |
8分以内 (典型的には5分以内) |
8分以内 (ナルコレプシー患者よりは長い) |
SOREMP | 2回以上 | 2回以上 | 2回未満 | |
総睡眠時間 | 正常範囲 | 正常範囲 | 10時間以上 | |
中途覚醒 |
多い(睡眠の分断化) | 多い(睡眠の分断化) | 少ない | |
中枢神経刺激薬の効果 | 有効 | 有効 | 無効の場合がある 副作用の頻度が高い |
|
眠気や居眠り以外の症状 | 必発ではないがレム睡眠症状としての入眠時幻覚、睡眠麻痺がある。 | 必発ではないがレム睡眠症状としての入眠時幻覚、睡眠麻痺がある。 | 自律神経症状として、頭痛、めまい、動悸、失神などがある。 | |
HLA遺伝子検査DQB1*0602との関連 | 強い(日本人ではDR2/DQB1*0602がほぼ100%陽性) | 約40%においてDQB1*0602陽性 | 特定のHLAとの関与は知られていない | |
髄液オレキシン値 | DR2陽性例では低値
110pg/ml以下あるいは、同じ標準的なアッセイによる正常対象の平均値の1/3未満。 |
一部において低値(低値例ではDQB1*0602陽性)
測定されていないか、110pg/mlより高いか、同じ標準的なアッセイによる正常対象の平均値の1/3より高い。 |
正常 | |
治療薬 | リタリン、ベタナミン、モディオダール、 アナフラニール |
リタリン、ベタナミン、モディオダール | ベタナミン |
注:以下のうち、少なくとも一つを満たす
1. MLSTが平均8分以下の睡眠潜時を示す
2. 24時間ポリグラフ睡眠検査(慢性的睡眠中断を修正を修正後の)で24時間睡眠時間の総時間が660分以上(12-14時間が典型)、あるいは、患者の手首アクチグラフによって、少なくとも3回の睡眠記録(平均して無制限の睡眠を伴う少なくとも7日以上)に関連している、日中の耐えられない眠気や日中の居眠りがある
ナルコレプシー1型、2型の診断基準(ICSD-3より)
基準AとBを満たさねばならない
【ナルコレプシー1型】
A. 患者は、少なくとも3ヵ月にわたって、日中に耐えられない眠気や日中の居眠りがある。
B. 以下のうち一つまたは両方がある
1. 情動脱力発作(「本質的な特徴」のもとで定義された)と、標準的な方法によって実施されたMSLT上で、睡眠潜時の平均が8分以下で、2つ以上のSOREMPs(sleep-onset REM periods)。夜間ポリグラフ睡眠検査に先立つ1回のSOREMP(睡眠開始の15分以内)は、MSLTにおけるSORENPsの一つに置き換えてもよい。
2. 免疫反応性によって測定された髄液オレキシン濃度は、110pg/ml以下あるいは、同じ標準的なアッセイによる正常対象に含まれる平均値の1/ 3未満。
基準A-Eを満たさねばならない
【ナルコレプシー2型】
A. 患者は、少なくとも3ヵ月にわたって、日中に耐えられない眠気や日中の居眠りがある。
B. 標準的な方法によって実施されたMSLT上で、睡眠潜時の平均は8分以下、2つ以上のSOREMPsがある。夜間ポリグラフ睡眠検査に先立つ1回のSOREMP(睡眠開始の15分以内)は、MSLTにおけるSORENPsの一つに置き換えてもよい。
C. 情動脱力発作はない。
D. 髄液オレキシン濃度は測定されていないか、免疫反応性によって測定された髄液オレキシン濃度が110pg/mlより高いか、同じ標準的なアッセイによる正常対象に含まれる平均値の1/ 3より高い。
E. 過眠 and/or MSLT所見が、睡眠不足や閉塞性睡眠時無呼吸症候群、睡眠相後退症候群、薬物等の投与・中断の影響のような他の原因によって、より明快に説明されない。
MSLT:multiple sleep latency test 反復睡眠潜時検査
Sleep latency:睡眠潜時(入眠までにかかる時間のこと)
Sleep-onset:睡眠開始
SOREMPs:sleep-onset REM periods
Nocturnal polysomnogram:夜間ポリグラフ睡眠検査
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)、中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)
【Kleine-Levin 症候群】
Kleine-Levin 症候群は、認知、精神、行動障害が明らかな期間のある再発-寛解症状によって特徴づけられる再発性の重篤な過眠症である。ICSD-3では、歴史的な用語であるKleine-Levin 症候群が、再発性過眠症の代わりに好ましいと復活した。理由は、この症状は典型的とはいえなくとも、なんらか同種だからである。
【文献】
Zucconi. M. & Ferri. R. B. Assessment of sleep disorders and diagnostic procedures. 1. Classification of sleep disorders. In ESRS-Sleep Medicine Textbook , Chapter B.1. 2014.
http://www.esrs.eu/fileadmin/user_upload/publications/ESRS_Sleep_Medicine_Textbook_Chapter_B1.pdf
(2017.10.19DL)
他の参考文献
ただし、記載内容がZucconiらと異なっている。(入眠潜時が8分以下が8分未満と記載されるなど)
他を調べても8分以下が多いので、そちらを採用。
Sateia. MJ. International Classification of Sleep Disorders-Third Edition. Highlights and Modifications. Contemporary Reviews in Sleep Medicine. CHEST. 2014.1387-1394.
https://medicinainternaelsalvador.com/wp-content/uploads/2017/03/internation-classification-ICSD-III-beta.pdf
(2017.10.19DL)
清水徹男. 睡眠障害の診断と分類(ICSD-3)
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/pdf/h28-2-3.pdf
(2017.10.19DL)
ナルコレプシー、特発性過眠症のお薬
分類 | 商品名 | 一般名 | 用法・用量 (成人) | 副作用 | 30日分の負担額(3割) |
中~ 長 時 間 |
ベタナミン(10,25,50) | ペモリン | 1日20~200mg、 2回朝昼食後 |
肝障害、 頭痛、動悸、消化器症状、精神症状など |
375円 864円 1,653円 |
長 時 間 |
モディオダール(100) | モダフィニル | 1日1回200mg朝 300mgまで |
肝機能数値異常、頭痛、動悸、悪心、食欲低下、肥満、精神症状など | 12,126円 |
短 時 間 |
リタリン (10、1%散) |
メチルフェニデート | 1日20~60mg、1~2回 | 依存耐薬性、 肝不全、肝障害、黄疸、頭痛、動悸、消化器・精神症状など |
288円 |
注:リタリンは、3~4時間の短時間作用型のため、依存耐薬性になりやすい問題があります。
私は、ベタナミンの効果が不十分なとき、レスキューで頓服処方をすることが稀にあります。
注:コンサータはリタリンと同じ成分、ナルコレプシーには保険適応はありません。
ADHDの薬です。
ナルコレプシー 遺伝子検査について
HLA遺伝子検査は、日本人のナルコ1型には特異的に陽性を示しますが、陽性率はほぼ100%です。遺伝学的検査は、本人だけでなく血縁者に影響を与える可能性があり、ときに倫理的問題を派生することがあります。少なくとも、両親、兄弟姉妹の理解と同意が必要です。
検査の対象となる遺伝子は、HLA-DR2、HLA-DQB1の2種類です。
HLA遺伝子検査は、保険適応外のため、自費診療となります。私は、この遺伝子検査は絶対に必要とは思っていません。髄液オレキシン濃度測定と同様に、本人ご家族の希望によって、検査を行っております。
参考:2011年2月日本医学会 「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」
大田浩右