振戦とは、筋肉の収縮と弛緩が繰り返されたときに起こる意識しないで生じるふるえです。
振戦は誰にでも起こり得ます。手のわずかなふるえを気にする人がおられますが、そのほとんどは、病的振戦ではありません。振戦は、ストレスや不安、疲労などによっても起こります。他にもアルコール依存症の禁断症状や甲状腺機能の亢進、カフェインや薬物の過剰摂取によっても起こります。
正常な振戦
- 手の指の細かい震えを気にする人がおられます。これは病気ではありません。手の指を広げた状態で保つと、筋肉の緊張が、細やかな振るえとして見えます。姿勢時振戦の一種です。膝の上に手を乗せるとピタリと止まるはずです。
本態性振戦
- 最も頻度の多いふるえです。本態性は原因不明、原因のよくわからない振戦という意味です。
生活に支障のない限り、放置します。 - 手足頭のふるえ、声のふるえなど、ふるえのみを症状とします。
本態性振戦の治療
人前で字を書く仕事、精密な測定器具を操作する仕事など、振戦(ふるえ)が仕事に支障をきたす場合は治療の対象となります。日本ではβブロッカー製剤であるアロチノロール塩酸塩,、プロプラノロールが第一選択です。海外では抗てんかん薬プリミドンが第一選択です。プロプラノロールとプリミドンの併用療法も推奨されています。その他に抗てんかん薬クロナゼパム(ランドセン、リボトリール)、ドパミン系を介さない抗振戦薬ゾニサミドも有効です。ただし、ゾニサミドには軽度~中等度のMAO阻害作用があります。併用薬に注意が必要です。
薬の効果が不十分な場合は集束超音波治療で対応します。なお、過剰治療が問題になっています。
振戦のタイプによって名前がついています
安静時振戦(resting tremor)
- 安静時(筋肉の随意収縮がまったくない状態、手を膝の上に置いたときなど)に見られ、動作によって減弱します。
- パーキンソンParkinson病が代表的な疾患です。パーキンソン病の場合は手を膝の上に置いて、力を抜いても手指が1㎝前後震え、丸薬を丸めているように見えます。これは病的です。
姿勢時振戦(postural tremor)
- 安静にしている時には振戦はなく、ある姿勢を保つ時に出現します。
- 本態性振戦が代表的な疾患です。
動作時振戦(action tremor)
- 随意運動を行う時に生じますが、動作が止むと消失します。
- Hoimes振戦が代表的な疾患です。この振戦は通常一側性に生じる3~4Hzの粗大振戦です。脳幹の血管障害で起きる極めてまれな振戦です。
企図振戦(intention tremor)
- 安静時には出現せずに、動作を起こす時に生じる3~6Hzの振戦です。
- 脊髄小脳変性症、小脳梗塞、小脳出血等の小脳疾患が代表的です。
振戦の周波数
診断 | 周波数 (Hz) |
どのような時に発症するか | ||
安静時 | 姿勢時 | 動作時 | ||
パーキンソン病に伴う振戦 | 4〜7 | ◯ | △ | △ |
パーキンソン症候群に伴う振戦 | 4〜7 | ◯ | △ | △ |
軟口蓋振戦 | 2~7 | 〇 | △ | △ |
Holmes振戦 | 2〜4 | ◯ | △ | ◯ |
起立性振戦 | 13~18 | × | △ | △ |
生理的振戦 | 6〜13 | × | ◯ | △ |
甲状腺機能亢進症に伴う振戦 | 7~11 | × | 〇 | △ |
慢性アルコール中毒に伴う振戦 | 7〜11 | × | ◯ | △ |
末梢神経障害に伴う振戦 | 5~10 | × | 〇 | △ |
本態性振戦 | 4〜11 | × | ◯ | △ |
心因性振戦 | 3~10 | △ | 〇 | △ |
中毒性・薬剤性振戦 | 3〜10 | △ | △ | △ |
ジストニアに伴う振戦 | 3~8 | △ | 〇 | 〇 |
小脳性振戦 | 3〜6 | × | ◯ | ◯ |
◯=よくみられる △=みられることがある ×=通常みられない |