眠っている間に大食する病気 睡眠関連食行動障害(SRED)

2010/04/01

眠って1時間ほどするとムックリと起きあがり、そのままわき目も振らずに台所に行き、冷蔵庫から食べ物を取り出し、手当たり次第に食べてしまう。それでいて起きている時にはそのことを全く覚えていない。このような異常な行動を睡眠関連食行動障害(SRED スレッド)と呼びます。眠る前にちゃんと夕食はとっているのに、眠っている間にさらに大量の食事をするので、当然太ってしまいます。

食べ物はパンやケーキ、アイスクリームなど、脂肪分や糖分の多い高カロリー食品で、そのまますぐに食べられるものはそのまま食べます。パスタやピザなど煮たり焼いたりするものは眠りながら調理をしてから食べます。火の始末が不完全ですと焦がしたりボヤ程度の火災を起こすこともあります。また、ゆで上がりのパスタをいきなり頬張って火傷をしたり、ものを取り落としてケガをすることもあります。あまりの痛さで目が覚めることもありますが、多くはそのままガツガツと食べ続け、再びベッドに戻って眠ります。

料理はいつもまともなものを作るとは限りません。台所の洗剤など普通は入れないようなものや、食品でも奇妙な取り合わせの煮物や炒め物を作ってしまいます。不思議とワインや酒などのアルコールに手を出すことはほとんどありません。食べこぼしであたりは汚れ放題ですが片付けることはありません。ですから翌朝になって台所や食卓がひどい状態になっているのに家族はもちろん本人も驚きます。行動中の記憶が全く無いので、誰がこんなに散らかしたのかと思い、泥棒騒ぎになるケースもあります。結局パジャマの汚れや口の中の火傷などから、自分自身が夜中にしでかしたことだと気づきます。

食行動中は半覚醒状態ですので、起きている時間が長いほど睡眠不足の影響が出てきます。翌朝の寝不足感と日中の強い眠気や疲労感を伴うこともこの病気の特徴です。 睡眠ポリグラフで睡眠経過を精査すると睡眠遊行と同じように、脳波は熟睡状態を示している最中に異常行動が始まっています。行動中の記憶が無いというところは睡眠遊行と共通したものですが、睡眠遊行は台所に向かうことはまずありません。調理をすることもありません。睡眠遊行が小児に多いのに対してこの睡眠関連食行動障害は、10代後半から20代前半で発病しやや年齢が高いことが特徴です。アメリカの一般大学生の調査で有病率は4.6%といわれています。小児期に睡眠遊行があり、思春期に一度消失し、成人期に入って睡眠関連食行動障害を発病するというケースが多いようです。有病率は女性のほうが高く患者の3分の2を占めるといわれています。

最近では、治療薬の開発と治療法の進歩により異常行動を抑えることが可能になってきました。あまり知られていない病気のため、正しい治療を受けることが出来ずに「夜中に大食するもう一人の私」に脅かされている人々いることは残念なことです。

思い当たる人は睡眠専門医の先生に一度相談されるとよいでしょう。

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レム睡眠行動障害

2009/05/19

レム睡眠では水平方向に急速な眼球運動が起こります。英語でRapid Eye Movementと呼びます。頭文字でREMとなり、日本語ではレムと書きます。

レム睡眠ではこの急速眼球運動が起こるとともに、姿勢を保つ骨格筋の力が抜けてしまいます。家にイヌやネコがいたら眠っている様子を観察してください。スフインクスのように首を持ち上げて眠っている状態がノンレム睡眠、横倒しになったりお腹を上にして寝ている時がレム睡眠です。

睡眠中は天敵に襲われる危険が最も高いにもかかわらず、どうして全身の力が抜けて身動きできない状態になるのでしょうか。

フランスのリヨン大学のジュベー教授のグループの研究によると、脱力は“橋“という脳の深いところにあるレム睡眠の中枢から指令が出され、その指令が延髄にある骨格筋の緊張を調整している中枢に届くことで起こっていることがわかりました。この脱力の指令が伝えられる経路を切断してみました。するとネコはレム睡眠が始まると突然起き上がり、あたかもそこに幻の獲物がいるかのように、捕食攻撃行動と呼ばれる特徴的な襲撃行動を繰り返したり、毛を逆立てて少しでも体を大きく見せたり、まったく無謀な逆襲とも思える威嚇行動を示しました。この攻撃行動では大声でうなったり、シャーシャー威嚇音と思われるしゃがれ声を立てたりします。レム睡眠が終わりノンレム睡眠に戻ると、ネコはおとなしく眠り続けます。

ネコは起きていたのではないかという疑問に答えて、ジュベー教授は、レム睡眠中に起き上がってきたネコの前にハツカネズミを入れたビーカーを置いてみました。ネコが起きているのなら一呑みするところですが、ネコは目もくれず、ひたすら幻の獲物を追いかけたり、天敵から遁走の機会を狙う行動を続けます。そこで彼らはこのネコの行動を夢幻様行動と名づけました。

夢幻様行動を分析すると生き残りをかけた危機管理モデルのシミュレーションが行われていることがわかりました。この研究から動物も夢を見ていること、夢の場面設定は大部分が危機的な状況で、動物はあらゆる知恵と勇気を振り絞って問題の解決に当たっていることが明らかになりました。しかもこのシミュレーションでは脳の運動制御システムに実際の場合とそっくりの命令が送られていますので、あらかじめ全身の筋肉を脱力しておかないと夢の中の攻撃行動が実際の行動として表出してしまいます。レム睡眠中にはハラハラ、ドキドキする夢を見ることが多いのは、もともと夢は生き残りをかけた危機管理システムの点検と新しい経験を取り入れたプログラムの更新をしているからです。

これが人間にも当てはめることが出来るとしたら、脱力のシステムに異常が起こると、毎晩レム睡眠になると大声をあげ、誰かと争うような行動が夢幻様行動となって表出するはずです。実はジュベーの動物モデルとそっくりの行動が起こることが報告されています。それが今回のテーマであるレム睡眠行動障害です。

レム睡眠は睡眠の後半、朝方に20分から30分くらい持続します。睡眠遊行は深いノンレム睡眠で起こる覚醒障害で、睡眠の前半におこりますが、レム睡眠行動障害は朝方に起こります。レム睡眠の状態ですが脱力の神経経路に障害がありますから睡眠障害ということになります。朝方大声を上げて走り回ったり、ベッドパートナーに襲い掛かったりする行動があれば、レム睡眠行動障害の疑いがありますから、睡眠専門医の診断と指導を受ける必要があります。

この病気の有病率は1万人規模の調査で0.4%です。50歳代以降で発病する人が多く、男性にやや多いという傾向が見られます。有病率だけを見ればごくまれな病気といえますが、わが国は高齢社会となって65歳以上の人口はおよそ2700万人に達しています。その0.4%は10万人を超える人数となります。

レム睡眠行動障害の治療は、悪夢を減らすことと、粗暴な行動の表出を抑えるための化学療法と心理療法が行われています。睡眠遊行の対応と共通することですが、異常行動中に怪我をしないようにするために、壊れ物や倒れやすい家具は片付けるなどの工夫が必要です。また悪夢の最中は本気で暴れていますから、近寄らず安全な場所に移動しましょう。

一人暮らしの人ではなかなか気づきにくいのですが、朝起きて部屋が驚くほど荒らされている、いつもの寝床ではなく別の位置で目覚めたなどということがおきたらば、睡眠遊行症とレム睡眠行動障害のどちらかである可能性を考えましょう。睡眠ポリグラフ検査を受けてレム睡眠中に骨格筋の脱力がきちんと起きるかどうかを確かめましょう。レム睡眠行動障害は他の神経疾患の前駆症状であることも少なくありません。

暴力を振るわれ恐怖体験を重ねると、家族は暴力は自分に対する潜在的な攻撃欲求の表出と受けとめたり、寝ぼけたふりをして実は故意にやっている家庭内暴力だと思い込んでしまうことがあります。異常行動の可能性があれば、専門医を受診しましょう。そしてレム睡眠行動障害という病気なのだと分かれば、家族で力を合わせ、治療に前向きに取り組み、異常行動を悪意に解釈したり、誤った理由付けを防ぐことが出来ます。

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夜驚症(やきょうしょう)

2009/01/09

夜驚症の症状は眠り始めて1~2時間経過し、熟睡状態に入ったと思われるころに突然布を引き裂くような悲鳴を上げて起き上がります。大きな叫び声をあげるところが特徴で、目を大きく見張り、表情は恐怖に引きつっています。呼吸は速く不規則で荒々しく、脈拍は普段の2倍くらいの速さになります。さらに全身の皮膚が赤らんだり、多量の汗をかいたりします。

多くは寝床の上に起き上がる程度ですが、部屋の中を泣きわめきながら走り回ったりします。多くは5分以内で終了しますが、長いときには20分間も続くことが報告されています。

パニック状態では声をかけてもほとんど応じません。無理に覚醒させようとすると激しく抵抗します。覚醒しても錯乱状態で、現在自分はいまどこにいて、どのような状況であるかはまったくつかめていません。

起きる直前に何か怖い夢でも見ていたかと尋ねても、ほとんど答えることは出来ません。また、現在自分は何におびえて泣き叫んでいるのか、そのわけを話すことも出来ません。

夜驚症のエピソードは家族にとっては大騒ぎですが、当人は翌朝にはこのパニック状態のことをほとんど覚えていません。このため、走り回っても怪我をしないように部屋の中を整え、静かに見守るのが良いとされています。

すでにお話した「睡眠時遊行症」と大変よく似ていることがわかると思います。どちらも「寝ぼけ」としての共通点を持っており、行動中の記憶がほとんどなく、なかなか覚醒せず、無理に覚醒させようとすると激しく抵抗するところも共通しています。

終夜睡眠ポリグラフで検査してみますと、夜驚症のエピソードも熟睡状態(ノンレム睡眠の段階3と4)で突然始まります。夜の睡眠では熟睡状態は睡眠の最初の3分の1の部分に集中して出現します。夜驚症のエピソードが入眠後1~2時間後に起こりやすいのはこのことによっています。しかし熟睡状態であれば昼間の睡眠でも起ります。そこで睡眠時驚愕症とも呼ばれています。

夜驚症はどの年齢でも起こりますが、3~ 12歳児に多く見られ、発症の頻度は子ども3%、大人1%以下です。子どもの場合は成長に伴って自然に症状は消失しますので、重症の場合は別として、多くは安全に気配りして見守るのが良いとされています。

これは子どもの病気と思い込んで、大人にもあることがついつい見落とされがちです。大人では20歳から30歳で見られることが多く、高齢者ではほとんど起こらないようです。心身の疲労や不安緊張など心理的、身体的なストレスがかかると起こりやすくなります。

激しい虐待や暴行、大惨事に遭遇するなど強い心的外傷体験でストレス障害(PTSD)があるときには、特に症状が強く現れます。ご本人にはほとんど記憶がありませんから、なかなか気がつかないのですが、ご家族など周囲の方に症状があると言われた方は、一度専門医の先生と相談することが大切です。

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睡眠遊行中の犯罪・事故

2008/10/31

オタワ大学のロジャー・ブロートンは裁判所からある殺人事件の容疑者に意識障害の疑いがあるため、事件当時の責任能力を問えるかどうか鑑定を依頼されました。鑑定作業を進めるうちに、事件は睡眠遊行中に起きており、刑事責任を問うことはできない。という結論に達しました。この記録は1994年の専門誌『SLEEP』に紹介され睡眠研究者に衝撃が走りました。事件の概要は次のとおりです。

容疑者KPは23歳の男性で、妻と生後5ヶ月の女児の3人暮らし。事件当日の早朝に義父母(妻の両親)宅に侵入し、義父に重症を負わせ、義母の胸と首をナイフで数箇所を刺し、激しく頭部を殴打して死亡させました。その後自分の車に戻り我に返ると手に大怪我をしていることとナイフを持っていることに気づき、警察署に自首しましたが、犯行当時の記憶は全くありませんでした。

KPの自宅から義父母の家までは23km離れており、車で10~15分のところで、途中に3つ交通信号があります。警察の調書には午前4時15分に自首という記録があります。警察署、義父母宅、KP自宅のそれぞれの距離と移動時間、犯行時間から割り出すと、KPは自宅を午前3時から3時半に車で出発し、義父母宅に侵入、犯行後車で意識が戻るまでおよそ30分という事になります。 本人の証言では当夜はテレビを見ていたので眠りに就いたのは午前1時30分ごろであったと言います。3時半に出発するとして、起きたのは3時かそれより少し過ぎた頃とすると、寝てから1時間半から2時間でまさに熟睡状態、睡眠遊行が起こる可能性が最も高い時間帯です。その日の日中には日頃の憂さを晴らす為にラグビーの試合に出ており、かなり疲れていましたから熟睡状態が持続しやすい条件が整っていました。

あたかも覚醒しているかのように振舞いながら、記憶が全く無いところから、睡眠遊行症が候補としてあがったことは当然のことです。睡眠遊行症は強いストレス状態で起こりやすく、1回の遊行時間が30分程度まで長くなることがあります。実はKPは会社のお金に手をつけてしまい、横領罪に問われ自宅も売却して返済に充てるという状況でした。

ブロートンは精力的に資料を集め睡眠障害の精密検査を行いました。それによると、KPには11-12歳まで頻繁な夜尿と寝言があり、睡眠遊行もおこり窓から飛び出しそうになったことが兄弟の話しから明らかになりました。。睡眠中に突然起き上がり歩き回ったり、走ったりするあらゆる病気をこの事件に当てはめても、どれも異常行動はせいぜい5分から10分で、30分間という長い時間を持ちこたえることは出来ません。最終的に睡眠遊行中に起こった事件として責任能力は問えないとしました。睡眠遊行症の治療を行うことにより再犯の恐れは無くなったこと、記憶は無いにしても自分の犯した罪を深く悔やみ反省していることを総合し、裁判所は本件を無罪としています。

その後の研究で犯行動機がはっきりせず不可解な殺人事件や傷害事件に睡眠遊行症が関与していたこと、そして睡眠専門医の努力によって心神耗弱状態という裁定がなされたことが報告されています。また、高速道路のサービスエリアで仮眠中に睡眠遊行が突然始まり、本線を逆走して正面衝突した50歳の男性の事件など、不可解な事件の背後に睡眠遊行症が潜んでいることが次第に分かってきました。

日本でも高速道路の逆走など似たような事件が起こっています。KPの事案は決してまれなケースではないといえるでしょう。

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小児の夢遊病と成人の夢遊病

2008/10/14

すやすやと眠っていた子どもが突然目を覚まし、ベッドのふちに腰掛けて足をぶらぶらさせたり、部屋の中を歩き回ったりします。窓を開けて出ようとしたり、ドアを開けて外に出たりします。何の目的で歩き回るのかは分かりません。長いときには10分も歩き回ることがあります。危険なものがあるとき、それをよけるようにと声を掛けても、全く反応しません。歩き回っている最中の子どもを無理に起こそうとすると暴力を振るうなど激しく抵抗することもあります。翌朝目覚めた時に昨日の晩、自分が何をしていたか思い出すことが出来ません。

このように夢遊病の症状がある時は、夢遊中に子どもが怪我をしないように、寝室の安全管理を徹底しましょう。家の外まで出て行くこともあります。この場合には交通量の多い通りを横切ったり、川や池などに入ったりすることもありますから、ドアや窓は簡単には開かないようにする事が大切です。

夢遊は6歳から12歳の学童期に起こりやすく、小学生の15%が1回は夢遊を経験しているといわれています。ほとんどの人が15歳までに自然に治ってしまいますから、深刻に受け止めて病人扱いをしないほうが良いと考えられています。もちろん、修学旅行など宿泊する行事では、担任の先生にあらかじめお話して、夢遊が起きた時の対応をお願いしましょう。

夢遊病あるいは、夢中遊行症(むちゅうゆうこうしょう)という病名から「夢の中をさまよう歩いている」と想像されるのですが、夢を見ているという証拠は見当たりません。寝入ってから1時間から3時間までの時間帯は深い睡眠状態が連続する熟睡状態です。そこで突然夢遊が始まり目を開けて起き上がります。起き上がっても脳波は熟睡状態がしばらく続きます。やがて眠りの浅い「うとうと状態」のパターンに移りますが、完全な覚醒状態に移ることが出来ません。つまり不完全な覚醒状態で歩き回っているのが夢遊なのです。

脳が眠りながら歩き回る、日本語の「寝ぼけ」は、この状態をぴったりと言い当てています。いつから夢遊病という名前がついたかはよく分かっていませんが、英語では“sleep walking” で 直訳すれば「眠りながら歩く」となりますから「睡眠遊行症」となります。恐らく江戸末期に医学書を翻訳する際に夢の中をさまようと意訳して「夢中遊行症」と命名されたようです。夢との関係がはっきりしませんので、最近は「夢中遊行症」は「睡眠遊行症」と呼ばれるようになりました。

児童期の「睡眠遊行」は神経質にならないほうが良いと書きました。しかし、思春期を過ぎて中学生以上になっても続く時には睡眠専門医の先生に相談して下さい。約1%の人は成人しても寝てから1-2時間のうちに歩き回ったりします。子どもの場合と違って事件に巻き込まれたり、自分から事件を引き起こすこともあります。翌朝目が覚めた時に、昨夜の出来事を思い出すことが出来ません。成人の「睡眠遊行症」は児童のほほえましい姿とは全く違った世界を背負っているのです。

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金縛りとナルコレプシー

2008/07/18

“金縛り”は健康な人の40%が体験するごく普通の“不思議体験”で、前回のお話のように、入眠期に出現したレム睡眠が原因でした。ところが、この“金縛り”は、過眠症(ナルコレプシー)という睡眠障害の症状としても現れることがあります。この症状は100人に1人位の割合でおこり、割合としてはそれ程大きくありませんが、決してまれな病気ではありません。発病の年齢は10歳代で、健康な人の“金縛り”体験と初発年齢が重なっており“金縛り”体験の内容もよく似ています。それでは、“金縛り”が一時的なストレスなどの一過性の原因で起きたものなのか、ナルコレプシーが原因で起きたものなのか、どのように見分けるのでしょうか。

まず、ナルコレプシーの特徴を挙げてみましょう。

ナルコレプシー

第1の特徴は、日中に耐え難い強い眠気と居眠りが繰り返し襲ってくることです。居眠りの長さは10~20分位で、目覚めた時の気分は爽快で気持ちよく起きることができます。健常者でも寝不足の時や退屈な時には強い眠気を感じることがありますが、ナルコレプシーの患者さんは、車の運転中や試験の最中など、普段では考えられない状況で居眠りが始まってしまいます。重症の患者さんでは、眠気を感じる前に居眠りが始まってしまうケースもあります。これを睡眠発作といいます。ちなみにこの睡眠発作中は悪夢を見たり金縛りが起きることはありません。

第2の特徴は、情動性脱力発作と呼ばれるもので、怒ったり、笑ったり、驚いたり、激しい感情の変化(情動)があると発作が起こり、骨格筋の力が抜けてしまうというものです。発作の長さは2~3秒の短いものが大半ですが、数分続くこともあります。発作の強さは様々で、全身の力が抜けるのを感じるという程度から、首の力が抜けて頭を垂れる、舌がまわらない、膝や腰の力が抜けて立っていられない、しゃがみこむなどや、強い発作の場合は転倒してケガをすることもあります。発作の最中も意識はしっかりしていて、脱力中も何が起こったのかはっきり記憶することができます。

第3の特徴が、睡眠麻痺入眠時幻覚です。簡単にいえば“金縛り”です。ナルコレプシーの患者さんは、入眠期レム睡眠が起こりやすいので、健康な人よりもずっと頻繁に睡眠麻痺と入眠時幻覚が起こります。

ナルコレプシーという病気の特徴は、ごく普通の人にも見られ、健常者でも日中に居眠りが起こったり、笑うと力が抜けてへたり込んでしまうということも珍しくありません。しかし、よほどの寝不足でも試験の最中に眠ってしまうことはありませんし、嬉しさのあまり転倒してしまうこともありません。

“金縛り”体験がある人で、普段考えられない場面での眠気や脱力で悩んでいる人は、睡眠専門外来を受診することをお勧めします。ナルコレプシーは薬物療法や心理療法できちんと治る病気です。

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金縛り体験の科学

2008/07/03

金縛り

「夜中に突然目が覚めました。起きようとするのですが、身体が全く動きません。人を呼ぼうとしても声も出ません。胸を強く押されて息苦しい。おそるおそる目を開けてみると、何者かが私のお腹の上にのっているようです。とても恐ろしい体験でした。その後どうなったか…気がついたら朝でした。その時の体験は今も鮮やかに思い出すことが出来ます。夢とは全く違う体験でした。」

皆さんにはこのような体験はないでしょうか。これが「金縛り体験」といわれるものです。その特徴をまとめると次のようになります。

  1. 動けない
  2. しゃべれない
  3. 不安や恐怖感を伴う
  4. 胸やお腹の上に何か(誰か)がのっているように感じる
  5. 誰かがいる気配がする
  6. 鮮やかな映像(光景)が見えたり、声や物音が聞こえる。はっきりとした触覚を感じることもある

などになります。 「金縛り体験」の研究に詳しい福島大学の福田一彦先生の調査では、金縛り体験のある人は、男性で37.7%、女性で51.4%おり、全体で43.0%の人が体験しています。

初めて体験した年齢を尋ねると、女性は15歳、男性は17歳でした。金縛り体験の起こる直前の体調は、「疲れていた」「いやなことがあった」「生活が不規則だった」「寝不足だった」などで、心理的、あるいは身体的ストレスの強い時や、不規則な生活で睡眠と覚醒のリズムが乱れた時に起こるようです。半数以上の人が思わず霊の存在を信じてしまいそうになったと答えています。

この金縛り体験は入眠期に急に起こったレム睡眠が原因で起こることが実験的に証明されています。睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠の2種類があります。うとうとした状態から熟睡状態までをノンレム睡眠と呼び、このノンレム睡眠を経てからレム睡眠が始まります。レム睡眠では鮮明で情動的な夢が現れます。全身の骨格筋の力が抜けてしまうのもこの睡眠の特徴です。

不規則な生活で睡眠と覚醒のリズムが乱れると、うとうと状態からいきなりレム睡眠が始まることがあります。また夜中に目覚めてしまい、再び眠りに入るときにもレム睡眠から始まってしまう事があります。レム睡眠で見る夢は心理的、身体的に強いストレス状態では不安や緊張を反映して、悪夢になりやすくなっています。また、覚醒から急にレム睡眠に入ると、高い意識状態が保たれていますので、自分はまだ眠っていないと思ってしまいます。そこで現れた悪夢は夢ではなく現実の出来事と受け止められ、恐怖感が一層強められます。身体を動かそうとしても骨格筋が麻痺しているので動けません。身動きできないのはレム睡眠に特有の麻痺状態が原因です。

「金縛り体験」は入眠期に突然現れたレム睡眠が原因で起こる不思議体験の一つですが、決して「心霊現象」や「超常現象」ではなく、そのメカニズムは科学的に説明する事が可能な現象なのです。

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入眠期の不思議体験

2008/06/10

入眠期の不思議体験

うとうとして目を閉じた状態から、規則正しい寝息が聞こえるまでの間を入眠期といいます。覚醒と睡眠の丁度中間の状態です。

入眠期には色のついた光線や幾何学模様が見えたり、日常生活の1コマを切り取ったような映像が見えたりします。また、自分でも意味不明の言葉や考えが次から次へと浮かんでは消えたりします。これを入眠期の滅裂思考とか入眠期の心象体験と呼びます。翌朝目覚める頃には忘れてしまって、ほとんど覚えていないことの方が多いので、あまり話題になることはありません。

この入眠期に見えたり聞こえたり、あるいは頭の中をよぎった不思議な言葉などに強い関心を寄せた人々がいます。超現実主義(シュールレアリスム)といわれる芸術家集団は、この滅裂思考や心象体験が消えないうちにメモに書き留めたり、すばやくデッサンしたりしました。それをもとにして、既成の概念や構図にとらわれない斬新は作品が生み出されていったのです。

わが国でも俳句や和歌を愛好する人の中に、入眠期のひらめきとして注目する方々がいます。また、科学者でこの心象体験のお陰で大発見をした人もいます。化学者ケクレは暖炉の傍でウトウトした時に、6匹の蛇が互いに尻尾に食いつく奇妙な映像が浮かんだそうです。これにヒントを得て、有名なベンゼン環を着想したそうです。

一方で、この入眠期の心象体験をたいそう嫌った人々もいました。ひたすら無念無想の境地を求めて座禅をする修行僧です。

特に嫌われたのが落下体験浮遊体験でした。急に深い谷底に突き落とされたような感覚に襲われ、「思わず布団にしがみついた」という体験はありませんか? この落下体験は居眠りが始まって「舟をこぐ」といわれ、身体がぐらぐらと揺れる状態のときに起こると考えている人も多いと思いますが、特に体が揺らぐような状態でなくても、この落下感は起こります。

授業中の居眠りでこの体験が発生すると大きな音をたてて机にしがみついたりするので、教室中の注目を集めてしまい、きまりの悪い思いをした人もあるかもしれません。

修行中の僧侶にもしばしば眠気が襲います。昏沈(こんちん)と呼ばれ、眠気で姿勢が崩れると、警策(けいさく)という細長い板で肩を叩いて目を覚まして貰います。修行を妨げるものは悪魔の手先ですから、この眠気を睡魔と呼びます。入眠期になると修行僧にも様々な心象や滅裂思考が湧き起こってきます。これは煩悩魔(ぼんのうま)という悪魔の仕業と考えました。中でも地が裂け、地獄に落ちるような落下感はたいそう恐ろしく、修行僧を悩ましました。

ごく普通の生活をする人々は、特に睡魔と闘って起きている必要はありませんから、次々と湧き出てくる入眠期の心象や滅裂思考に身を任せているうちに、いつしか眠りに入ってしまいます。難しく考えず、今晩から眠る前に何が見えるか、聞こえるか楽しみにしてみてください。素晴らしいアイデアが浮かぶかもしれませんよ…

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