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不定愁訴(脳過敏症)の治療薬

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けなげに働く薬たち

王様は、トリプタノール・ノリトレン
脳過敏症治療薬の王様は、何といっても三環系抗うつ薬トリプタノール、ノリトレン、そして四環系のミアンセリンである。抗うつ剤と名前は付いているが薬効は抗うつよりも鎮静鎮痛作用に優れる

私は長年、三環系抗うつ薬とテグレトールの構造がとても良く似ていることが気になり、特別な関係があるに違いないと思っていた。後日、トフラニールとテグレトールが同じ研究者シンドラーによって創薬されたことを知った。これらの薬の作用機序はよくわかっていないが、私の推測では、シンドラーは、トフラニールを開発した時点で、すでにテグレトールの構想があったものと思われる。構造体が似ていれば近い効果が期待できるはず、と考えるのは素直な発想である。トリプタノール、テグレトールは、構造体、作用機序ともに類似の薬剤だが、副作用の多いテグレトールは王様になれなかった。

 

皇后陛下は、デパケン
脳過敏症で最も使用頻度の高い薬はデパケン(バルプロ酸ナトリウム)である。デパケンは元々研究用に使用される溶媒であった。19世紀後半に親油性試薬を溶かすための溶媒として多用されていた。20世紀に入り、抗精神病作用をもつ薬草の研究中に発見された。80年の歳月を経て一九六七年、フランスで初めて抗てんかん薬として承認された。

日本でも早くから注目されており、当時の協和発酵がバルプロ酸の開発に力を入れ、一九七五年にデパケン錠として発売された。製薬メーカーは、小児てんかん薬として売れるとは期待していなかった。ところが、臨床現場ではデパケンの鎮静作用、気分安定化作用に対する高い評価を受け、爆発的に使用量が増えていった。同時にミトコンドリアを障害する副作用について、報告されるようになった。その機序についてはいまだ不明である。
その後、デパケンの吸湿性の弱点を解決したバレリンが大日本製薬から発売され広く使用された。後にデパケンの吸湿性と半減期が短い(8~15時間)弱点を改善するため、徐放錠が開発された。これが現在私の使っているデパケンR錠で、Rは持続性(retard)の略である。協和発酵のデパケンRは優れもので、宣伝以上の効果を発揮したため、私も多用した。ところが、患者の中から「先生にもらったお薬がそのまま便に出ているので、効いていないのではないか」とのクレームが出るようになり、メーカーに問い合わせたところ、スポンジ状のマトリックス構造の中に納められたデパケンの成分、バルプロ酸は、エチルセルロースという優れものの皮膜に覆われたカプセルを通して、10時間程度でほぼ完全に放出されること、マトリックス構造の皮膜は不溶性のため消化吸収されず、糞便にそのまま排出されるという、ごもっともな説明を受け納得、デパケンRを現在も使用している。
今では、デパケンRはバルプロ酸の弱点である吸湿性、水溶性、胃腸障害を解決した使いやすい薬となっている。結果的に、ほぼ100%吸収され、薬効を発揮する徐放錠はデパケンRしかない。また、デパケンは、元は溶媒として、解りやすく言えば石けんとして使われていた低力価なので、人の体に優しいという利点がある。優しく、じっくりと効くので、女王様と言える。
もう一つの利点は、デパケンにラミクタールを併用することがある。デパケンは肝臓でグルクロン酸抱合を受け、尿に排出される。ラミクタールも同じ経路で代謝されるため、デパケンにグルクロン酸を奪われ、結果として代謝排出が遅れるため、ラミクタールの効果は、倍増することになる。即ち、デパケンに併用した場合、ラミクタールは少量で効果を発揮することになる。更なる利点として、脳過敏症に多い、片頭痛に対するデパケンの頭痛作用は確実であり、片頭痛予防薬として汎用されている。安価なデパケンは、とんでもなく高価な片頭痛頓服薬トリプタン製剤の使用量を抑えている縁の下の力持ちでもある。

 

皇太子は、リボトリール
1969年にガストウGastautがてんかん薬としての効果と安全性について報告した。これを契機に、日本でも抗てんかん薬としての開発が進み、リボトリールは一九八〇年に、同じクロナゼパムであるランドセンは一九八一年に承認された。小学生のランドセルから学童をイメージして、ランドセンと命名した話は、いかにも小児用てんかん薬として売りたいという気持ちがにじんでおり、おもしろい。そのうちにリボトリールはてんかん薬としての使用は減少した。その一方で、不安障害、皮膚感覚異常症、疼痛、耳鳴り、レム睡眠行動障害、ムズムズ脚の治療薬としての活躍が始まった。特に、不安障害に対しては、パキシルなどのSSRI薬が顔負けするほどの効果を発揮し、感情の起伏を抑える気分安定薬として浸透した。私は長年、お世話になったセルシン、ベンザリンに別れを告げ、リボトリールを処方するようになった。リボトリールの人気を博した理由は、広い治療域、良いバランス、効果が分りやすいなどである。構造式は、セルシン、ベンザリンなどのニトラゼパムの基本形と極めてよく似ている、基本形にハロゲン基がついただけで、これほど薬効が変わる??創薬のおもしろいところであろう。
ついでながら、リボトリールがなぜ脳過敏症に効くのかという疑問に対して薬理学を紐解いてみると、扁桃核から視床の刺激による脳波の発作発射を抑制する作用がある。このGABA受容体を介する作用は抗不安、睡眠、感情調節に対する効率よいバランス作用があり、万能薬と言われたセルシンに取って代わったのは当然なのかもしれない。すなわち、リボトリールは、てんかんの薬として承認されたにもかかわらず、抗不安薬の超優等生として認められたのである。その上、抗てんかん薬なので、90日処方ができる、安価で長期処方してもらえるお徳用の薬でもある。特に長期内服しなければならないムズムズ脚症候群や足ピクつき症などの患者にとって、これほど有難い薬はないのである。

 

皇太子妃は、リスパダール
リスパダール(リスペリドン)は、陰で夫を支える淑女のような薬である。リスパダールは精神科の怖い薬のイメージがあり、患者さんを安心させる事前の説明は大切である。少量であれば副作用なくバランスの良い使いやすい薬である。私はもっぱら0.5mg/日を処方している。
リスペリドンは一九八四年、ベルギーのヤンセン・ファーマが、従来の抗精神病薬とは構造の異なるベンズイソオキサゾール骨格を有する新規薬品として合成に成功した。リスペリドンの薬理作用は、セロトニン・ドパミン・アンタゴニスト(SDA)と呼ばれている。
リスペリドンは、統合失調症の陽性症状、陰性症状の両方に有効であるという特性から、強い不安感や焦燥感、モヤモヤ感を訴える患者に良く効く。中でも難しい不定愁訴の患者の処方に少量を加えると良い。また、他の脳過敏症の薬とも相性がよく、相互作用の心配が少ない。王様のトリプタノール、女王様のデパケンとも、相互作用による重篤な禁忌はなく、少量なら、舅姑とまことに相性が良いのである。これが皇太子妃たる所以である。リスパダールと相性のよくない併用注意薬は、テグレトール、ビ・シフロールである。

 

インデラル ~有効な理由~
インデラルは、2013年、片頭痛治療薬として承認された。抗うつ薬、抗てんかん薬とは異なり、交感神経の興奮を抑えるβ遮断薬である。市販されているβ遮断薬は20種類以上あり、β受容体の種類や作用によって分類されている。中でも脳過敏症の治療に有効なのは、β2遮断薬インデラル(塩酸プロプラノロール)である。インデラルは、脂溶性で中枢移行性がある。一方、本態性振戦治療薬のαβ2遮断作用薬アロチノロール(アロチノロール塩酸塩)は、水溶性で中枢移行性はない。β遮断薬は作用発現時間や持続時間にそれぞれ特徴があるが、インデラルは短期作用型で頓用に用いやすい。β遮断薬の作用機序は奥深く、交感神経系の恒常性バランスが崩れた自律神経失調症、交感神経緊張型不眠症、体位性頻拍症候群の治療薬として有効である。

 

大田浩右著 『慢性愁訴の治療革命 脳過敏症』p94-109より引用

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