医学博士 大田浩右
大田外来で私が一番力を入れているのは めまい片頭痛です。
めまいは頻度の高い不定愁訴の一つです。めまいと頭痛の関係については拙著『脳過敏症』P145~148に詳しく説明しています。
めまいに難渋し医療機関を受診しても原因についての具体的な説明はなく漫然とメシル酸ベタヒスチン(メリスロン)などの治療を受けている人を多く見受けます。めまいで多いのは1914年ノーベル賞受賞者であるロベルトバラニ-教授によって報告された回転性の良性発作性頭位眩暈症です。このめまいは耳石の異常によって起こる末梢性めまいです。その多くはめまい時間は短く数秒から長くて十数秒位、まれに数分続く長いめまいもあります。特効薬はなく安静の必要もなくめまい体操が有効です。一方、頭痛と関係しためまいの多くはフワフワとした体の中心が取りにくい違和感のあるめまいです。その他の特徴として肩こり、光音臭い気圧過敏、キラキラや視野欠損などの視覚症状、シビレ・ピリピリなどの感覚症状、入眠困難、中途覚醒などの睡眠障害、寝る前のスマホ依存、運動不足など多彩です。私の外来には耳鼻科で治療を受けたがよくならない、神経内科を受診したがよくならないと訴える方たちが多くお出でになります。
めまいの原因
世の中はめまいといえばメニエール病と言われるほど巷にメニエール病が溢れています。ところがメニエール病は国が難病指定するほど稀な病気なのです。メニエール病の多くはメニエール症候群です。メニエール症候群の中で多いのは脳過敏性めまい、めまい片頭痛(前庭性片頭痛)、首肩こりめまい症(頚性めまい)、更年期めまい症などです。
めまいの種類
前庭性片頭痛
・めまいと頭痛の関係
紀元前131年カッバドキアのAretaeusの報告に始ります。2000年の時を経て、めまいと頭痛についての体系的研究は1873年ビクトリア王朝の医師Edward Livingが報告しています。以来、140年の歳月を経て、めまいと頭痛の関係はより科学的、臨床的興味へと焦点が絞られていきます。2012年国際頭痛学会と国際神経耳科学会であるバラニー協会はめまいと頭痛の関係を『前庭性片頭痛』とすることで合意します。この新しい病名『前庭性片頭痛』は国際頭痛学会ICHD-3βの付録に収録され、国際的に認知されました。
⇒合意した診断分類ICHD-3β
ICHD-3βは前庭性片頭痛の分類だけですが、バラニー協会版は前庭性片頭痛疑いも入れた分かりやすい分類を公表しています。
⇒詳しくはこちら
しかし、日本では前庭性片頭痛めまいは医師の世界でも知名度は低く、多くの神経内科医、脳外科医、耳鼻科医は・・前庭性片頭痛という病名すら知らない医師が多いのが実状です。なぜ知名度の遅れ、認知の遅れが起きているのか、、それはめまいと頭痛の両方を訴えるのは患者さんの4分の1にも満たない。多くの患者さんはめまいを主症状として受診し、頭痛はありません~めまいと頭痛が同時に起きることは一度もありませんと医師に訴える患者さんが多いのも診断の遅れる理由と考えられます。
・以前の名称
前庭性片頭痛と統一される以前は、良性発作めまい、めまい性片頭痛、片頭痛性めまい、片頭痛関連めまい、片頭痛関連バランス障害など、多彩な名称で呼ばれていました。2012年これらのめまいは統一され前庭性片頭痛めまいと名称を変えました。神経耳科学国際バラニー協会は『成人および小児における反復性回転めまいの最も多い原因は前庭性片頭痛である』と明記しました。あれから数年経ちますが、未だに前庭性片頭痛めまいの知名度は低いままです。スイスにある三次めまいセンターによる最近の研究では、めまいセンターで実際に前庭性片頭痛と診断されたのは20.2%にのぼったにもかかわらず、患者を紹介してきた医師のうち前庭性片頭痛めまいを疑ったのはたった1.8%と報告しています。
・前庭性片頭痛(めまい片頭痛)は過小診断、過小評価されている
上記のように2012年までは、めまいには関連する症状が多く複雑であるうえに、様々な病名が用いられていたため、明確な診断分類がありませんでした。バラニー協会は多くのめまい患者さんが誤った診断と治療により生活に支障を来たしていると報告しています。私は脳過敏症の研究を通してめまいには不安、うつ、頭痛の合併割合が高いことに着目し、片頭痛の治療、不安の治療と併せ生活指導を積極的に行い、納得のいく治療成績を得ています。
更年期めまい
更年期女性のめまいは年々増える傾向にあり、男性の1.5~5倍という報告もあります。耳鼻科、産婦人科でよくならない治療抵抗性、難治性のめまいは脳過敏症の治療、前庭片頭痛の治療により多くの方は改善します。
特徴1:更年期のめまいは、反復する回転めまい、頭位めまい、フワフワめまい、乗り物酔いなど多彩なめまいを訴えます。
別の角度から電話インタビューによる大規模調査によると、体が不安定(91%)、体のバランス障害(82%)、めまい(57%)の順番でした。更年期のめまいはめまいの陰に隠れている体の不安定性やバランスの取りにくさにも注意を向ける必要があります。
特徴2:更年期のめまいの特徴は原因の複雑さにあります。閉経後の女性は昔あった片頭痛は平均8.4年遅れて単独のめまい発作に置き換わっているという報告もあり、頭痛がめまい発作に置き換わることは珍しいことではありません。すなわち、めまいがあっても頭痛を訴えない特徴があるため、頭痛はなくても若い頃の頭痛や肩こりの有無について問診確認することが大切です。若い頃に不安、頭痛、肩こり、首のこり、生理時頭痛で困った方は結構おられます。また若い頃に吐き気、嘔吐、流涙、目の充血、鼻汁、鼻閉、顔面紅潮、発汗、瞼の浮腫・下垂などの自律神経症状、光過敏、音過敏、臭い過敏、シビレなどの随伴症状を持っていた場合は片頭痛の疑いがあります。更年期めまいは不安ストレスに対する治療と片頭痛に対する治療を平行して行うとめまいだけでなく肩こり、頭痛、腰痛、イライラ、不眠まで高い治療効果が得られます。また、低用量の女性ホルモン併用も治療効果を高めます。
小児めまい
3歳、4歳の幼児期からめまいを訴える子供がいます。小児の回転性および浮遊性めまいの多くは自然寛解するため、小児期良性発作性めまいと診断します。逆に、めまいはなく頭痛を訴える場合は小児片頭痛と診断します。その多くは受診しても様子を見てくださいと言われることが多いのです。しかし、幼稚園に行けない、友達と遊べないなど日常生活に支障を来す場合、経過観察と言われると親子ともに途方にくれます。この反復する発作性のめまいを持つ小児の親、特に母親に頭痛持ちが多いことが知られています。また、めまいを起こす小児には光過敏が多いのも特徴です。このような子供さんには親子ともに生活習慣是正への強力な指導が必要です。特に小児の遅寝、子供部屋の明るすぎる天井照明の是正は必須です。
疫学的調査による小児めまいの原因は・・前庭性片頭痛39%、心因性/機能性めまい21%、その他です。この調査から分かるように、最も多いのは片頭痛関連症候群である前庭性片頭痛です。生活に支障を来たすほどの小児めまいは前庭性片頭痛と心因性めまいを合併している場合があります。この場合は生活習慣是正だけでなく、薬剤による治療介入が必要です。
注意)小児めまいの急性期に医療機関を受診した時、誘発性眼振、上方視のサッケード追従の異常、前庭機能の低下などの中枢性障害を示唆する所見があり、大学病院などの専門病院での精査を勧められ、親は驚き慌てることがあります。しかし精査してもほとんどの場合、重大な病気はまずありません。めまいの病態生理が未だに解明されていないからです。
その他
脳脊髄液減少症のめまい
意外にも盲点となっているめまいです。脳脊髄液減少症の確定診断が難しいせいもありますが、問診、ODテスト、全脊椎MRI検査などにより診断は可能です。
・長く立っていられない頭痛
・難治性のめまい
・症状が気圧、天気に左右される
・項頚部痛、背部痛、腰痛
・全身の痛み、慢性痛、アロディニア
・光過敏、音過敏、臭い過敏、味覚過敏、耳鳴り
・筋力低下
・不眠
・多彩な自律神経症状
・起立性調節障害
・認知の低下など
脳脊髄液減少症は多彩な症状を呈する症候群です。やっとCT検査ができるようになった昔、原因不明の頭痛、めまいの患者さんを多数診ていました。硬膜外ブロックの際、試しに空気、酸素、そして笑気ガスを硬膜外腔に20~60cc注入し著効例を経験しています。脳脊髄液減少症と診断されても髄液圧は正常な例はあり、難治性のめまい、難治性の頭痛に遭遇した時、いわゆる脳脊髄液減少症を頭の片隅に置いておく必要があります。
虚血発作めまい
頚部の内頚動脈、椎骨動脈の狭窄や屈曲、頚椎の変形や骨棘による椎骨動脈の圧迫、脳幹小脳に血流を送る椎骨脳底動脈系の血流不全、梗塞、出血など
反射性めまい
不整脈、徐脈、突発性頻脈、血圧など循環器系の異常
薬剤性めまい
血圧降下薬、糖尿病治療薬、高脂血症治療薬
まれなめまい
脳幹小脳の神経細胞の変性脱落を伴う多系統萎縮症、聴神経腫瘍、小脳腫瘍などの脳腫瘍
最近新しい考え方が提案されています。
1.片頭痛-不安-関連めまいMARD(migraine-anxiety-related dizziness)という新しい症候群です。
2.新前庭性症候群NVS(New vestibular syndromes):最近話題の中心になっている前庭性片頭痛、脳過敏症、更年期めまい、小児めまい、さらには1921年ロバートバラニーによって報告された古くて新しい良性発作性頭位めまい症BPPV(治療法は明らかになりましたが、原因は仮説のまま)、上半規管裂隙症候群、片頭痛不安関連めまいMARDなど、めまいの分類をややこしくしている現状のめまい分類を改め、まとめて新前庭性症候群NVSと一括したほうがわかりやすいと私は考えています。
めまいの治療
脳過敏性めまい、前庭性片頭痛めまい、更年期めまい、小児めまいの治療は共通するものがあります。
一番目が生活指導、二番目が薬剤治療です。この両者がかみ合ったとき、症状は著名に改善します。
・生活指導
睡眠不足、運動不足の是正のため生活日誌を得点制にし、生活習慣の改善を可視化することによって、本人のやる気を促し薬剤治療に匹敵する効果をあげています。 ⇒生活日誌
・薬剤治療
脳過敏性めまい、前庭性片頭痛めまい、更年期めまい、小児めまいの治療は原則として・・脳過敏症/片頭痛の治療を行います。バルプロ酸、三環系抗うつ薬の他に、プロプラノロール(インデラル)、メトプロロール(セロケン)、ビソプロロール(メインテート)、メトクロプラミド(プリンペラン)、トピラマート(トピナ)、ラモトリジン(ラミクタール)から選択、組み合わせ使用します。まれな薬剤として、非定型性抗精神病薬リスペリドンや気分安定薬リーマスがあります。時にメチルプレドニゾロン(1000mg/日 1~3日点滴)のパルス療法が効果を有することがあります。
参考資料
良性発作性頭位めまい症
俗に頭位めまい症と呼ばれます。このめまいは耳鼻科受診で良くなります。
良性発作性頭位めまい症は1分くらいの短いめまい発作であるのに対し、不安・ストレスめまい、前庭片頭痛の頭位めまいは少し長めのめまい発作です。罹病期間にも違いがあります。私は患者さんによく申し上げるのは、良性発作性頭位めまいには安静の必要のないこと、逆に繰り返しめまいを起こした頭の位置や姿勢をとることを勧めています。こうすることによって、めまいに慣れ、めまいを感じにくくなります。特にエプリー法などのめまい体操は効果を発揮します。数週間~数ヶ月で自然軽快します。一方、不安・ストレスめまい、前庭性片頭痛めまいにはめまい体操は効果なく、半年~1年、時には1年を越えてめまいが持続します。両者の鑑別診断はめまい体操、めまいの時間、罹病期間の違いによって鑑別できます。
メニエール病 国が難病指定している稀な病気です
メニエール病と前庭性片頭痛めまいはよく似た臨床症状のため、外来で経過を見ているうちにようやく区別できることが多いです。
メニエール病に多く見られる低音域難聴は、前庭性片頭痛めまいと不安・ストレスめまいにおいても高頻度に見られるため、鑑別診断には役立ちません。
メニエール病を最初に報告したProsper Meniere自身がめまいと頭痛の合併頻度は一般人口の2倍高いと記述しています。
いずれにしても、メニエール病と片頭痛や不安神経症との合併は多く見られます。一般のメニエール病と片頭痛を合併した患者は両耳の難聴が進行しやすいことがよく知られています。したがって、外来でメニエール病に遭遇した場合は不安・ストレスめまい、前庭性片頭痛めまいとの合併を考慮し、メニエール専門医との治療の連携が大切です。
人騒がせな高齢者の失神
除外診断に用いるHINTSは感度99%、特異度97%であり、HINTS陰性であれば脳卒中めまいを除外できます。
Dr.kousukeコラム ”めまいのこぼれ話”
Dr.kousukeコラム ”人騒がせな高齢者の失神”
検査所見
頭痛の程度を表すHIT-6(78点満点)は意外にも高くありません。前庭性片頭痛のHIT-6は50前後の傾向があります。めまい平衡機能検査では前庭眼球運動の異常や注視誘導性眼振、なかでも中枢頭位性眼振は比較的多くみられます。軽度の両側性感音神経難聴(低音域聴力低下)はかなりの頻度で見られます。白血球のうちリンパ球%の低下も高頻度に見られます。
めまい問診
めまいで苦しんでいる患者さんの生活習慣、性格、考え方など、具体的に把握するためには、めまい患者さん用の問診票が役に立ちます。 何時に消灯、就寝しているか、何時に起床するか、運動の習慣はあるか、ウォーキングをしているか、三度の食事は規則正しく摂取しているか、便秘や下痢はないかなど、詳しい問診を行います。
めまいの問診票 睡眠の問診票 性格やストレスの問診票 めまい体操指導