魔法の粉薬と出会って50年
大田浩右
ナイト治療
時間薬理学という新しい分野の研究が進み、睡眠中に薬理作用が増強されることが分かってきました。
魔法の粉薬
- 症状にあわせて複数の薬を少量ずつ混ぜると、なぜか用量以上の効果を発揮します。
- 薬の最大の利点は、自由に減らし自分の適量を探すことができます。
- 効き過ぎと思ったら、翌日から内服量を減らして下さい。
→ 4分の3の量にしてみる
→ 3分の2の量にしてみる
→ 2分の1の量にしてみる - 粉薬に入っている薬の作用機序については以下にわかりやすく書いてありますのでお読み下さい。
- 副作用として便秘とまれに口渇があります。
生活の見直し
・早寝:10時半までに就寝
・ウォーキング:毎日30分以上
・便秘、下痢、頻尿の解消
考え方の見直し
・こだわらない
・頑張りすぎない
薬理作用について
抗てんかん薬、抗うつ薬、抗精神病薬などの分類にこだわらないでください。
大切なことは、処方を受けたお薬の薬理作用についての説明を読んでいただき、理解いただくことです。
- バルプロ酸ナトリウム(デパケン、セレニカ)の作用機序は未だ十分にはわかっていません。気分安定化作用、片頭痛抑制作用、抗躁病作用など、大脳皮質抑制作用と神経活動の同期性の調整に関与していると考えられています。その穏やかな鎮静作用は、小児から老人まで安心して使え、耐性、薬剤依存性はほとんどなく世界で最も広く使われている薬剤です。ただ、時に肝障害や白血球、血小板などの骨髄抑制があるため、長期処方の際には3ヶ月~6ヶ月おきに採血し副作用チェックが必要です。
- アミトリプチリン(トリプタノール)は元抗うつ薬ですが、その薬効は世界的に脚光を浴びています。睡眠障害や頭痛肩こりに著効し米国FDAでは線維筋痛症の治療薬です。国立がんセンターでは癌性疼痛の治療薬として採用しています。異痛症のシビレ、ピリピリ痛に効果を発揮します。2018年2月、世界的医学雑誌 Lancet Psychiatry 2019にトリプタノールの薬効は同種新薬の薬効に勝ると評価されています。
- クロナゼパム(リボトリール)は最近は世界で最も多く処方される薬の一つです。ベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZ 系)であり、依存性が強く、認知機能への影響が懸念されます。そのため長期処方は不向きと言われていますが、興奮脳の鎮静作用が強く、むずむず脚症候群、レム睡眠行動障害の特効薬です。
- プロプラノロール(インデラル)は非心臓選択性であり、βアドレナリンアンタゴニスト です。日本ではあまり使われなくなりましたが、海外ではいくつもの臨床試験で、片頭痛の予防作用、抗不安作用、寿命を延ばす効果などが証明されています。グリンパティックシステムに関係する作用があり、認知症予防効果に期待が集まっています。
- リスペリドン(リスパダール)は日本では精神科で使う怖い薬のイメージがあります。説明なしに使うと時に苦情が出ます。興奮、うつの両方に効果を発揮します。その他、認知機能の改善、意欲の回復、鎮痛作用、睡眠の改善、食欲の改善など海外では安定した作用が評価され、精神科以外の領域で広く使われています。繰り返しますが、不安、不眠、恐れ、妄想に効果を発揮します。また、前頭葉の認知機能を改善するため初期の認知症に効果を発揮します。私はこの独特な薬理作用から好んで少量を処方しています。また、セロトニン、ドパミンを調整し、脳の抑制系を賦活し気分安定化作用、鎮静化作用を発揮し深い睡眠を誘発します。
- クエチアピン(セロクエル)は非定型抗精神病薬に分類され、精神科で使われる薬とのイメージが強いですが、リスペリドンと同様に精神科領域以外でも広く使われるようになりました。薬理作用は意欲の回復ではリスペリドンに劣りますが、鎮静作用は強力で不眠症、食欲不振に効果を発揮します。ただ、鎮静作用と食欲改善作用が強いので、起立性低血圧と体重増加の副作用があります。糖尿病家系には使用できません。
- ミアンセリン(テトラミド)はアミトリプチリン(トリプタノール)に7員環を加えることにより抗アセチルコリン作用をほとんどなくした薬です。副作用の眠気は抗ヒスタミン作 用のため健在です。鎮静作用があり不眠に効果を発揮します。高齢者の不眠治療に有効です。適応外ですがせん妄に即効性があります。
- ミルタザピン(リフレックス)はノルアドレナリン作動性、特異的セロトニン作動性、抗ヒスタミン作動性による抗うつ作用と睡眠作用を持っています。四環系に属する比較的古い薬です。欧米では外傷後のストレス障害、慢性疼痛、群発頭痛などに用いられています。肝障害 AST、ALTの上昇をみることがあり、副作用採血は必須です。私は時に処方する程度です。
- トラゾドン(レスリン)は元は抗うつ薬として開発されましたが、抗コリン作用がなく睡 眠の質を改善する作用があります。効果は弱いですが、高齢者向きです。
- パロキセチン(パキシル)はSSRI のなかで最も強いセロトニン作用を持っています。 このためパニック障害、強迫性障害に対し効果を発揮します。少量から効果を見ながら慎重に増量していきます。副作用として性機能障害の報告があります。
- メラトニンは夜間に脳の松果体から分泌される抗酸化作用を持つ睡眠ホルモンで、成長ホルモンやプロラクチンと協力して脳と体の疲労回復を図ります。結果として睡眠の質と認知機能を高めます。加齢とともに睡眠の質が悪くなるのはメラトニン分泌減少と関係があります。昼間のセロトニンは、夜暗くなると代謝されてメラトニンに変換され睡眠を誘発します。セロトニンとメラトニンをうまく交代させることが良眠につながります。就寝前の少量のリスペリドン、クエチアピンはセロトニン抑制作用があります。
昼は活動ホルモン セロトニンとノルアドレナリン、夜は抗酸化ホルモン メラトニン
昼は覚醒ホルモン オレキシン、夜は食欲抑制ホルモン レプチン
※副作用チェックのため、年2回の採血をお願いします
まれな副作用として肝機能障害を見ることがありますので、内服1~2ヵ月後に採血でチェックします。もう一つまれな副作用として多夢悪夢を起こすのはプロプラノロール(インデラル)です。悪夢を訴える場合はインデラルを休薬します。なお、インデラルは喘息と徐脈(50以下)には使用できません。テグレトール、ラミクタールは薬疹にとどまらず、稀にスティーブンス・ジョンソン症候群に至る重篤な副作用があります。怖さを知っている経験豊かな医師でないと危ない薬です。
※セロトニン・ドパミン拮抗薬
セロトニン(ノルアドレナリン共に)は睡眠覚醒リズムに関与し睡眠中は減弱ないし消失します。セロトニンはドパミンを強く制御していると考えられており、セロトニン・ドパミン阻害薬(リスパダール)による鎮静化作用、および気分安定化作用は深い睡眠を誘発します。
※グリンファティックシステムとは
脳の老廃物アミロイドβを洗浄するとして現在脳科学でホットな話題のグリンファティックシステムの中心的なホルモンはノルアドレナリンです。抗ノルアドレナリン作用を持つプロプラノロール(インデラル)は抗不安作用と共に脳脊髄液と脳間質液の流れを良くし、脳の洗浄機能を高め記憶力改善につながると期待されます。